マムシ谷 1981年8月

like a stream

2006年08月23日 01:07

 背の糊が取れてバラバラになりかけた古~い釣り日記を時々開いて見る。
1980年代前半には2万5千分の1の地図を頼りに員弁川水系の谷をあちこち巡った。
 小さな谷でも下界が遮断され、水の匂いを嗅ぎながら小さくてもきれいなアマゴが相手をしてくれればとても幸せだった。
 ちょうど今頃の季節に鈴鹿山脈のある谷に入った。
 地図では車止めから破線が谷添いに暫らく続いていた。
日記には入渓してから300メートルほどの区間は何故だったかあまり竿を出していないように書いてある。
 あまり釣れそうにないと判断したか、上流にもっと水量のある流れがあるような気がしたか、単に何故だか上流を目指したかったのだろう。

 暫らくして大きな堰堤がありその上は流れが伏流水となって水がなくなってしまった。
他にも行って見たい谷がいくつもあったので、この谷は止めて引き返そうかと思案した心情をうつろに覚えている。

 もっと上流に行けば水量が復活するはずと水の無い谷を登っていった。
谷を歩いたり草木に消えかかった道を辿ったり結構難儀をして200mほど登ったところでやっと谷に水が戻ってきた。

 さてと小さなアマゴでも顔を出してくれれば良いがと釣りのモードに入って、釣れそうな小プール目指して数メートル進んだところで岩の上に寝そべっているマムシと対面。

 マムシはこちらの気配を察して面倒くさそうに進路を開けてくれた。
プールでは小さなアマゴが反応してくれた。水はまだ大半が岩の下を流れていて次の岩の隙間を目指して10メートルほど進んだところでまたマムシ。

 岩に阻まれ川通しが難しそうなところに出たので一旦辿道に上がり谷に戻ったらまたマムシ。それを退かして少し進むとまたマムシ。
 安全を確認してよいしょと岩を乗り越えると少し開けた場所に出た。

 グェッグェという鳴き声が聞こえる方向に目をやると、数メートル先でマムシが食べきれないような大きなカエルを咥えている。こいつは退いてくれなかったのでやり過ごして数メートル進むとまたマムシ&マムシ。

 水量は少しずつ回復しつつある。上流には名の付いた滝もあり、小さな桃源郷が隠されているような気がしてもっと登りたかった。しかし手を着いて岩を登ることはもうできなくなった。

 なんだかとんでもない場所に迷い込んだ気がしてきた。
ひょっとしたらこちらが発見する前に気配を察して身を隠したマムシも相当数いたのだろうか?そんな想像も沸いてきて帰路はとても慎重になった。

 1日で数匹のヤマカガシやシマヘビに出会ったことはある。しかし3匹以上のマムシと遭遇したのは未だにこの日だけだ。 なんでこんな密度で居たのか良く分からないのだが、日差しか湿気を求めて谷に集まったのだろうか。

 この谷の上流の桃源郷は、自分の中では未だにマムシに守られたままである。

 

あなたにおススメの記事
関連記事